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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)1661号 判決

原告

野里延子

原告

志水照代

原告

小林末子

原告

田中光子

原告ら訴訟代理人弁護士

渡邊守

被告

今倉久美子

被告

松岡昭雄

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

渡辺文夫

被告ら訴訟代理人弁護士

中垣一二三

針間禎男

藤本裕司

主文

一  被告今倉久美子、同松岡昭雄は各自原告らに対し、各金一一二万九一〇三円およびこれに対する昭和六一年四月八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東京海上火災保険株式会社は、本判決中原告らと被告今倉久美子、同松岡昭雄の双方またはいずれか一方に関する部分が確定したときは、原告らに対し、各金一一二万九一〇三円およびこれに対する昭和六一年四月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は三分し、その一を原告らの、その余は被告らの各負担とする。

五  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告今倉久美子、同松岡昭雄は各自原告らに対し、各金六〇一万九六七四円および右各金員に対する昭和六一年四月八日から各支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上火災保険株式会社は、本判決中原告らと被告今倉久美子、同松岡昭雄の双方またはいずれか一方に関する部分が確定したときは、原告らに対し、各金六〇一万九六七四円および右各金員に対する昭和六一年四月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告らは、いずれも訴外亡寺崎きみえ(以下訴外亡きみえという)の実子であり、同女の配偶者寺崎正次は同女の死亡以前に死亡しているので、原告らが同女の相続人である。

2  事故の発生

① 日時 昭和六一年四月八日午前九時四〇分ころ

② 場所 神戸市中央区楠町一丁目一番一号先神戸市道線交差点

③ 加害車輛 普通乗用自動車(神戸五二さ九四三八号)

④ 加害車輛運転者 被告松岡昭雄(以下被告松岡という。)

⑤ 被害者 訴外亡きみえ(本件事故当時満七四歳)

⑥ 事故状況

信号機等による交通整理の行なわれていない前記交差点において、同交差点西詰の横断歩道の西端付近を南から北に向つて横断歩行していた訴外亡きみえに南北道路を南進して本件交差点で右折西進した加害車輛が衝突して、同女を路上に転倒させたうえ、右前輪で轢過したもの

⑦ 結果

多発性肋骨骨折にもとづく外傷性血気胸により事故発生当日午後零時三五分死亡

3  責任原因

(一) 被告今倉久美子(運行供用者責任)

被告今倉久美子(以下被告今倉という。)は、加害車輛を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条にもとづき、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任がある。

(二) 被告松岡昭雄(運行供用者責任、一般不法行為責任)

被告松岡は、加害車輛を自己のため運行の用に供していたものであり、かつ、交通整理の行なわれていない交差点において、右折西進しようとしたものであるところ、本件交差点西詰には横断歩道が設置されていたから、西方道路の安全を十分確認して進行すべき業務上の注意があるのにこれを怠り、前方をよく注視しないまま進行した過失により、前記横断歩道の西端付近を南から北に向けて横断歩行中の訴外亡きみえを前方約2.5メートルに迫つて初めて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、自車右前部を同女に衝突させて路上に転倒させたうえ、自車右前輪で轢過し、よつて、同女に多発性肋骨骨折等の重傷を負わせ、それにもとづく外傷性血気胸により死亡させたものであるから、自賠法三条および民法七〇九条にもとづき、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 葬祭料

金一九六万七三四一円

右は、葬儀から初盆供養までに要した費用で、原告らが均等に分担した。

(二) 文書料 金一万〇二一五円

原告らが均等に分担した。

(三) 逸失利益

(1) 逸失利益額

金一一六七万四九四三円

① 労働能力喪失による逸失利益

金六五二万二四四六円

訴外亡きみえは、本件事故により死亡するまでは神戸市中央区多聞通一丁目二―二に独居していたが、高令であるにもかかわらず、至極健康で家事万般を独力で処理するほか、余つた時間を活用して原告らの家庭を訪問して孫の守りをするなど家事を手伝つていた。昭和六〇年度賃金センサス産業計女子労働者学歴計により稼働可能期間を平均余命の二分の一である五・八年、生活費控除割合を三〇パーセントとし、ホフマン式にて中間利息を控除して、同人の逸失利益を算出すると、左のとおりである。

一四万六七〇〇円(月収)×一二月+三七万四六〇〇円(賞与)×七〇パーセント×4.3643=六五二万二四四六円

② 厚生年金受給権喪失による逸失利益 金五一五万二四九七円

亡きみえの年金額(年額)金八五万六八八三円をもとにして平均余命11.69(ホフマン係数8.5901)生活費控除割合三〇パーセントとして算出すると、左のとおりである。

八五万六八八三円×七〇パーセント×8.5901=五一五万二四九七円

(2) 原告らによる権利の承継

原告らはいずれも、訴外亡きみえの実子として、法定相続分各四分の一の割合により、訴外亡きみえに帰属した右損害賠償請求権を各相続した。

(四) 慰謝料 金二〇〇〇万円

訴外亡きみえは、七〇歳まで実弟の経営する会社の事務を手伝いながら、夫正次および末娘の原告光子と仲睦く暮してきたものである。昭和五七年一月に夫を失い、その時を契機に仕事を止め専業主婦になり、翌昭和五八年五月に末娘の光子を嫁がせてからは、独り暮しをしていたが、年齢の割合には極めて壮健で、娘達の家庭を訪問しては孫の成長ぶりを見守るのを生きがいとしてこれから余世を楽しもうとしていた矢先、見るも無惨な死に方を余儀なくされたもので、その無念さは測りがたいものがある。

また、原告らは、それぞれ自分の子供を持つて、親の愛情の尊さを悟り、近年、訴外亡きみえに対する敬愛の念を一層深くし、細やかな交情を重ねてきたのに、突然に非業の死によつて母を喪い、悲嘆の念は、日を経るにしたがつて逆に深くなつている。

殊に、即死ではなく数時間轢過によつて負つた骨折の激痛の中で苦しみながら死んでいつた母親の死様を想起しては、新たな涙にくれる日々を送つているのである。

右のごとき事情に被告らの不誠意きわまる態度を慰謝料額の算定にあつて斟酌するならば、原告各自金五〇〇万円宛が相当である。

(五) 損害の填補

金一一六九万三八〇〇円

原告らは、自賠責保険より合計金一一六九万三八〇〇円を受領したので、原告各自その四分の一宛をその損害額に填補する。

よつて、原告ら各自の残損害額は金五四八万九六七四円である。

(六) 弁護士費用 金二一二万円

被告らの不誠意により、原告らは本訴提起の止むなきに至つたもので弁護士費用のうち、原告各自につき、それぞれ金五三万円が本件事故と相当因果関係のある損害である。

(七) 被告今倉久美子、同松岡昭雄の原告らに対する債務

以上のとおり被告今倉、同松岡は、原告らに対し、自賠法三条(被告松岡についてはさらに民法七〇九条)により、連帯して、原告らの前記損害額(原告各自六〇一万九六七四円)およびこれに対する本件事故発生日である昭和六一年四月八日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う債務を負つている。

5  被告東京海上火災保険株式会社の責任

(1) 被告東京海上火災保険株式会社(以下被告東京海上という。)は、本件加害車輛の所有者である被告今倉との間で加害車輛について、記名被保険者を同女とし、原告らの請求額を超える金額を対人賠償責任保険金額とし、本件事故時を保険期間に含む内容の自家用自動車保険契約を締結している。

(2) 右契約の約款によると記名被保険者である被告今倉、許諾被保険者である被告松岡のいずれかに対する原告らの対人事故による損害賠償請求権が判決により確定したときは、原告らが被告東京海上に対し、右保険金額の範囲で直接請求できることが認められている。(自家用自動車保険普通保険約款第六条)。また被告今倉、同松岡には、原告らに対する前記損害賠償債務を弁済する資力がないことは明らかである。

(3) したがつて原告らは、前記約款にもとづく直接請求権および民法四二三条の債権者代位権にもとづき被告東京海上に対し、それぞれ被告今倉、同松岡に対する本判決の確定を条件に前記四7記載の金員に相当する保険金を請求することができる。

6  結論

よつて、原告らは、被告らに対し、請求の趣旨記載のとおりの金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は不知。

2  同2項の各事実は認める。

3  同3項の事実のうち、(一)は認め、(二)は運行供用者責任を争いその余の点は認める。

4  同4項の事実のうち、(五)の原告らが自賠責保険から金一一六九万三八〇〇円を受領したことは認め、その余は不知ないし争う。

5  同5項(1)の事実のうち、記名被保険者及び保険契約者を除き、その余は認める。記名被保険者及び保険契約者は訴外今倉政彦である。

同(2)のうち、約款第六条の直接請求権の存在は認め、被告今倉及び同松岡の資力がないことは争う。

なお、記名被保険者は、訴外今倉政彦である。

同(3)の主張は争う。

三  被告らの主張(過失相殺)

1  本件事故の状況

本件事故は、被告松岡が事故現場交差点を右折するため、速度を時速約一〇キロメートルに減速したうえ、同交差点西詰の横断歩道上や同横断歩道に入つてこようとする歩行者の無いことを確認し、同横断歩道を通過しようとしたところ、同横断歩道の西端から西方約三メートルの歩道上に佇立していた亡きみえが突然加害車輛の直前の車道を横断しようとして飛びだしてきたため、折から進路前方の遠方に視線を移していた被告松岡にとつて同女の発見が遅れ、急制動の処置を採つたが間に合わず、衝突に至つたものである。

2  亡きみえの過失

歩行者は、道路を横断するにあたり、横断歩道が近くに存する場合は横断歩道上を通行すべきことはもちろんであるし、また横断歩道外を横断する場合でも、車輛の直前直後を避けて横断すべき注意義務がある。

亡きみえは右注意義務を怠り、間近にある横断歩道を通行せず、かつ、被告松岡運転車輛の直前を横断しようとした過失がある。

本件の損害賠償額を定めるについては、右亡きみえの過失が斟酌されるべきである。

3  注意義務違反の程度

(1) 被告松岡は、本件交差点を右折するにあたり、徐行したことはもちろん、横断歩道上ないしその直近の歩行者の確認も怠つていない。

(2) 車輛の運転者は、視線を一か所に固定することなく、常にこれを移動し適確に四囲の状況を把握せねばならない。

被告松岡としては、横断歩道を通過する際の安全を確認しえたからこそ、視線を、これから進行すべき西行道路の前方に移したのである。

本件は、まさにその瞬間、亡きみえが加害車輛直前の横断を開始したものであつて、被告松岡の前方安全確認義務違反が否定されるものでないとはいえ、単なる脇見やいねむり運転による前方安全確認義務違反とは異なり、その注意義務違反の程度は大きくない。

(3) 一方、亡きみえは低速で接近してきている加害車輛を容易に認識しうる状態にあり、同女が高齢であることを考慮に入れても、危険な横断を避けて事故を回避しうる立場にあつた。

(4) 本件の損害賠償額を定めるにつき、公平の原則上、右の双方の注意義務違反の程度も大きく考慮されるべきである。

四  右主張に対する原告らの認否

争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば請求原因1項の事実が認められ、したがつて、原告らは相続分四分の一づつの亡きみえ共同相続人である。

二請求原因2項の事実および被告今倉が運行供用者として自賠法三条に基づき損害賠償責任のあること、被告松岡が民法七〇九条に基づき損害賠償責任のあることは、いずれも当事者間に争いがない。

三そこで損害について判断する。

1  葬祭費 八〇万円

〈証拠〉のうち、本件事故と相当因果関係にある亡きみえの葬祭費としては八〇万円をもつて相当と認める。

2  文書料 一万〇二一五円

〈証拠〉を総合すれば、文書料として頭書金員の支出を認める。

3  逸失利益 〇円

(一)  〈証拠〉を総合すれば、亡きみえは、本件事故当時七四歳の老令であつて、神戸市中央区多聞通一丁目二―二で独居して年金生活し、時には原告らの家庭を訪問して孫の守りなどをしていたが、勤労収入も稼働能力もなかつたことが認められるから、労働能力喪失による逸失利益を認めることはできない。

(二) 〈証拠〉を総合すれば、亡きみえは、本件事故前の昭和六〇年度において、社会保険庁から、老令厚生年金として八二万九四五八円、国民老令基礎年金(旧国民年金法七七条の二、新国民年金法附則三一条による通算老令年金)として二万七四二五円を受給していたことが認められる。

ところで、亡きみえの受給していた年金のうち、国民老令基礎年金は、その制度の目的が、老令、障害または死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持および向上に寄与することにあり(同法一条)、恩給とは異なり稼働活動に従事していない無職の者を被保険者としたり、無拠出の福祉年金制度を設けていることからすれば、国民年金制度の中に、損害賠償的性格が混在していても(同法二二条)、少くとも老令基礎年金は、専ら被保険者の生活保護を目的とした性格を有しているものというべきであり、したがつて、たとえ第三者の不法行為によつて被保険者が死亡しても、国民年金法二九条により受給権が消滅し、その一身専属性に鑑み、相続性を肯定することができない。

次に厚生年金保険は、一般の民間労働者についての年金制度であつて、労働者の一部拠出制によつていることや、一定年限被保険期間経過後の老後の生活保障を目的とする点で恩給と類似し、生活保障的性格のほかに損失補償的性格(厚生年金保険法四〇条)も混在しているが、恩給とは異なり、老令厚生年金については、要扶養者の数に応じて支給額が増加する加給年金制度(同法四四条)を採用している点に鑑みると、老令厚生年金は、損害のてん補という観点から離れて被保険者やその被扶養者の要保護状態に応じ、それに必要なだけの保険給付をするという、生活保障的側面が圧倒的に強く、すなわち、老令厚生年金は、被保険者とその被扶養者の生活保障を目的として支給されるものであり、受給者は、その死亡理由の如何を問わず、死亡すると受給権が消滅し(同法四五条)、その限りにおいて老令厚生年金は、国民老令基礎年金と同様、一身専属的な性質を帯び、相続性を肯定することができない。

以上のとおり、亡きみえが受給していた、老令厚生年金、国民老令基礎年金は、いずれも生活保障的性格を有し、その理由を問わず、死亡によつて受給権は消滅し、一身専属的なものであるから、相続の対象となることを前提とした、両年金の逸失利益を認めることはできない。

4  慰謝料 合計一五〇〇万円

原告ら固有の慰謝料としては、一人当り三七五万円宛、合計一五〇〇万円をもつて相当と認める。

5  以上1ないし4の合計額は、一五八一万〇二一五円となる。

四被告らは、亡きみえに過失があつたと主張するから、その有無について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、1 本件事故現場は、交通整理の行われていない交差点西詰めの南北に走る幅員4.3メートルの横断歩道付近であつて、亡きみえは本件事故当時、右横断歩道の西端から約二メートルはずれた線上を南から北に向い横断歩行中、ほぼ中央まで進んだとき、前記交差点で右折西進してきた被告松岡運転の加害車両に轢過されたものであること、2 前記横断歩道を北に渡り切つたところは宇治川商店街の一角であり、同横断歩道は歩行者の往来が多いこと、3 被告松岡は、前記交差点を北から西に時速一〇キロメートルで右折しようとしたが、右折開始地点から前記横断歩道への見通しがよく、その先の同歩道近くを歩道していた亡きみえの発見が容易であるにもかかわらず、西方道路の安全確認を怠つて、漫然、同一の速度で右折進行し、亡きみえを前方2.5メートルに迫つて初めて発見し、加害車右前部を同女に衝突させて路上に転倒させたうえ、同車右前輪で轢過したものであること、4 被告松岡は、本件事故当時二四歳であつて、暴力団山口組系二代目山健組内杉本組に籍をおき、昭和五七年一月から同六〇年七月二〇日までの間、道路交通法違反により処罰二回、同法反則行為六件の前歴があること、以上の事実が認められ、以上認定事実によれば、亡きみえは、本件事故当時、横断歩道からはずれて横断していたものであるが、当該横断歩道は商店街と隣接し、往来が多く、しかも同女は、横断歩道西側から僅か二メートルの場所を横断していたのであるから、横断歩道上の横断と同視してよいものというべきである。そして、一方被告松岡は、数多く交通法違反歴があるのみならず、暴力団体の組員であり、本件事故当時、前記交差点を右折するに当り、前記横断歩道への見通しがよく、亡きみえの横断歩行を容易に発見できたのにもかかわらず、右方の確認をしないで漫然時速一〇キロメートルで加害車両を運転して右折進行し、亡きみえの姿を衝突直前で発見し、同女を轢過したという歩行者無視の無謀運転をしていたのであるから、本件事故は、同被告の一方的な過失によるものであり、亡きみえに過失があつたといえない。よつて、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

五原告らが被告らから本件事故につき一一六九万三八〇〇円の損害てん補を受けたことは当事者間に争いがない。

前三項記載の損害額一五八一万〇二一五円から右てん補額を控除すれば、残損害は四一一万六四一五円となる。

六弁護士費用は、右認容額、本件事案の難易性に照らし、四〇万円をもつて相当と認める。

前項記載の損害額に右弁護士費用を加えると、損害合計は四五一万六四一五円となり、右損害額を原告ら四名に割当てると、原告一人当り一一二万九一〇三円宛となる。

七そうすると、被告今倉、同松岡は、連帯して原告らに対し、損害賠償金として各一一二万九一〇三円およびこれに対する本件事故発生時である昭和六一年四月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

八次に、原告らの被告東京海上に対する請求について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、1 被告東京海上は昭和六一年一月三〇日今倉政彦との間において、本件加害車両につき、記名被保険者を右政彦、対人賠償額無制限とする内容の自家用自動車保険契約を締結したこと、2 被告今倉は、本件加害車両の所有者であるとともに右政彦の妻であつて、したがつて、右保険の被保険者であること、3 被告松岡は、右政彦の承諾を得て本件事故当時、本件加害車両を運転していたものであり、同被告も右保険の被保険者であること、4 被告今倉、同松岡は、前記暴力団杉本組の関係者であり、前項認定の損害賠償金を支払う資力がないこと、以上の事実が認められ、以上の認定事実によれば、原告らは被告東京海上に対し、それぞれ被告今倉、同松岡に対する本判決の確定を条件に、前七項認定の損害賠償金に相当する保険金を請求できるものというべきである(最高裁判所昭和五七年九月二八日第三小法廷判決、民集三六巻八号一六五二頁参照)。

九以上の次第で、原告らの被告らに対する請求は前記七の損害金、保険金の支払を求める限度で正当として認容し、その余はいずれも棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官広岡保)

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